NHK連続ドラマ『エール』では主人公、古山裕一と鉄男が藤丸に連れられて佐藤久志の家を訪れると、久志(山崎郁三郎)はすっかりかわりはてた姿になっていました。

 プリンス久志とは思えない姿に。どうしたんでしょうか。久志の目には昔の輝きもありません、早く戦後の苦しい思いから立ち直って、心に炎の火を灯して欲しいものです。

 佐藤久志のモデルは伊藤久男です。伊藤久男と言えば「イヨマンテの夜」でしょう。今日はその代表曲「イヨマンテの夜」の話しをしてみたいと思います。

「イヨマンテの夜」

 伊藤久男の代表曲「イヨマンテの夜」はNHKのラジオドラマ『鐘の鳴る丘』の劇中の山男をテーマとした演奏曲として、古関が作曲し1949(昭和24)に発表されています。

 奥多摩の山奥で木材を切っている木樵(きこり)が歌詞のない歌を口ずさむ「アーアー」だけのメロディだったが、菊田と古関が気に入り、ひとつの作品として残すことになりました。

 レコード化にあたり、ドラマの脚本を書いた菊田が後から歌詞を加えた。

 当時、彼はアイヌの作品を手がけていたため、アイヌ的な単語を当てはめて作りました。

 「アーホイヨー」の歌い出しは雄叫びにも似て、伊藤が朗々と歌い上げます。

 なんと木樵の口ずさみがアイヌの「熊まつり」、「イヨマンテの夜」になった瞬間でした。

 「アホイヤァー」の叫び声に度肝を抜かれ、そして「イヨマンテ/燃えろかがり火/ああ満月よ/今宵熊祭/踊ろうメノコよ」の後、間奏、そして「ああー」と続きます。

 「イヨマンテの夜」作詞:菊田一夫、作曲:古関裕而、歌手:伊藤久男とコロンビア合唱団でレコードが販売されました。

 リズム的にも大変難しく、男性的な歌謡曲の典型。

 古関裕而「派手で劇的な効果に男性的な豪快さがあり、男性なら一度は歌ってみたくなる曲である。が、難しいことも第一級で、リズムが十六分音符と八分音符の二拍子系なのに、メロディには三連音符が多く現れる二対三の変則的なリズムをいかに歌いこなすかが問題で、作曲にその面白みをねらってある。」と述べています。

 レコード会社は「こんな難しい歌は売れっこありませんよ」と見捨てて、ポスター一枚作成しなかった。

 しかし、このレコードが売れたのです。大ヒットとなりました。

 ヒット曲はわからないものです古関裕而と菊田一夫が樵の「アーアー」だけから作った曲がヒットするんですから。

 ヒットすると思ってもヒットしなかったり、ヒットしないと思った歌が意外とヒットするものみたいです。

 ヒットには歌手、伊藤久男の声量と迫力がある歌声があったのは間違いないことだと思います。

 1950年から1952年頃の『NHKのど自慢』ではほとんどの男性出場者がこの曲を選択し、審査員を困らせたということです。

「ああー」カン。

「ああー」カン。

 なんだか鐘一つのため息のようにも思える「ああー」でした。

 当時の「のど自慢」の風景が見えるようです。()

 音楽とは、男の心から炎を打ち出すものでなければならない。そして女の目から涙を引き出すものでなければならない。

Music should strike fire from the heart of man, and bring tears from the eyes of woman.

ベートーベン

 古関裕而作曲の「イヨマンテの夜」は男の心から炎を打ち出すものだったようです。